第2回 「ニコニコバカヤロー」
「なにすんだー」「バカヤロー」
また今日もいつものようにAさん(女性)から聞こえてくるこのセリフ。
なるべく声を掛けてから対応して、不愉快な思いにさせないように配慮していますが、ベッドから起き上がる時、スタッフに体を触られてびっくりしているのかもしれません。
『Aさん、もう終わりますよ』『痛くないですよ』と声を掛けると落ち着いた表情になり、お互いに一安心。
認知症を患い、時々こういった怒り口調をするAさんだが、ドキッとさせられるような一面もお持ちです。
Aさんとお茶を飲みながらゆったりと会話をしていた時のこと。
笑顔でAさんへ微笑みかけると、突然片手を私の頬に当て、「可愛い顔して~」と一言。
まるで、お祖母ちゃんが孫に話しかけるかのような、優しいほんわかとした表情でした。
その言葉にあまりに驚いて、その時は上手く答えることができませんでしたが、心の中は驚きつつも嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
私は、笑顔で応対すればいつもこんな落ち落ち着いた気持ちになってもらえるのではないかと思い、別の日にもAさんに向かって笑顔で微笑みかけてみました。
すると、なんと今度はなぜかニコニコした表情で「バカヤロー♪」という返答が返ってきました。
以前のようにまた頬を触って、あのほんわかした表情が見られるかと思っていたのですが、今回はまた違った意外な表情に出会うこととなって、またびっくりさせられました。
もともと、Aさんからバカヤローと言われるのは、決して嫌な訳ではなく、むしろ『また言われちゃった』といった感じで、可愛らしさすら感じます。
なぜこのような言葉が出るのか不思議に思い、ご家族に伺ったところ"以前はもともとそんな言葉を使う人じゃなかった"とのこと。とても不思議な現象です。
子供が出演しているテレビを見ると、にっこりと笑う様子がたくさん見られる様子からも、昔はとても気の良いお母さんだったことが良く分かります。
"笑顔で話しかければ、また「可愛い顔して~」と笑顔が返ってくる"なんて、そう簡単にはいかないけれど、笑顔を心掛けていれば相手も心穏やかに過ごしてくれるのだろうな、ということをAさんから学びました。
ひょっとしたら、また新たなAさんの一面が見られるかもしれないですね(笑)
今後も笑顔でチャレンジを続けます!